《MUMEI》
土曜日 〈おれ〉
蓬田、寝坊してやんの。


急いで着替えたらしく、寝癖がついたままで外に出てきた。



「ごめんね!!…行こっか」


「…おれさ、」



蓬田に言う。



「うん?」


「おれさ、朝飯食ってないんだよね」



そう続けると、



「…そうなの!?―…えっと、どうしようか」



困ったような蓬田に、提案する。



「…お前も食ってねえんだろう?
―…おにぎり、食べよう」


「……へ??」


「だから、お前の作ったおにぎり。
もったいないだろ?…食おうぜ」



とたん、蓬田の顔が真っ赤になった。



「…し、知ってたの…??」


「うん?」


「……私が、おにぎりの練習してたこと…」



真っ赤に染まっているのは、『おれ』の顔で、やっぱり不思議な感じがした。



「…知ってたってゆうか…普通気付くだろ。
冷蔵庫にあんだけおにぎり並びまくってたらさ」



おれが答えると、



「…上手くできるようになったら、食べて欲しかったの。
…あの、えっと、おにぎりも作れないなんて、その……」



言いよどんでうつむく蓬田。



「…かっこわるいよね…」



小さく、呟いた。



「かっこ悪くなんかねえだろ」



おれが言うと、蓬田は顔を上げた。



「頑張っててかっこ悪いやつなんて、この世にいねえよ」



な、とおれが笑いかけると、
蓬田も、ありがとうと言って微笑んだ。


それから2人でいびつなおにぎりを食べた。



味は、やっぱりうまかった。
握り方のコツを教えてやると、蓬田はやってみる、と真剣な表情で頷いた。




…蓬田のふとした仕種が、おれの心をぐちゃぐちゃにかき乱す。



おれは、それに気付かない振りをした。

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