《MUMEI》

俺が歩く数歩後ろを、棗がついてくる。



…靴は、いつの間にか履いている。



「かばんをね!!買おうと思って!」



と笑った棗は、今、
俺の歩幅に合わせようと急ぎ足で歩いてるけど、少しずつ距離は離れていく。



でも、俺を呼び止めようとすることも無く、ただ黙ってついてくる。


別におれが歩幅を合わせる必要はないし、棗もまさか、迷子になったりなどしないだろう。


…仮に迷子になったからといって、俺には関係の無いことだ。


少しずつ、棗の息遣いと靴音が遠ざかる。


信号が青に変わり、人間が一斉に動き始める。

棗の気配が、その雑踏に紛れる―…




と、




棗の纏う空気が、変わった。



気配が、消えそうになる。



嫌なものを感じて振り向くと、



人にぶつかられても、足を踏まれても、
少しよろけるだけで動こうとはしない、



虚ろな瞳をした棗が、雑踏に紛れ、立ちすくんでいた。

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