《MUMEI》 かばんを買おうと思った。 あたしのかばんは、誰かに切り刻まれていたのを思い出したから。 数歩前を歩く、二階堂くん。 深い色をした黒髪が、湿った風に揺れる。 『えみくん』って呼んだとき、彼は少しあたしを見てくれた。 …それが、すごく、すごく嬉しかったんだ。 水分の多い、透き通った瞳が、あたしの鼓動を速くした。 なぜか、どうしても名前で呼びたくなった。 あたしのことなんか気にも留めずに、前を歩くえみくん。 長い脚だなあ。 そんなことを考えながら信号待ちをしていると、信号が青に変わった。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |