《MUMEI》 俺は何事かとゆっくり顔を上げると、マウンドから真正面に見える、一部のフェンスが大きく揺れていた。 グワングワン、と振動する音がここまで聞こえて来る。 誰が一体…… ここまで考えていると、見覚えある顔に焦点が定まった。 まさか…… 颯ちゃん…!? 颯ちゃんはフッと俺に微笑むと、 「おい、桐海蓮翔。 この俺が忙しいなか観に来てやってんだ。 まさか負けるんじゃねぇだろうな。 …それとも、お前の実力はその程度か?!!」 挑発的な言葉を俺に浴びせた。 まあ、颯ちゃんらしい励まし方だな…。 俺は誰にも聞こえないように小声でサンキューな、と呟くと、颯ちゃんに笑顔を返した。 「おい、滝澤颯馬。 言ってくれるじゃねぇか。 …見てろよ、今に本当の俺の実力とやらを見せ付けてやらぁ!!!」 そう言うと、今さっきキャッチャーの豪田から受けたボールを颯ちゃんの方へ突き付けた。 見てろよ… この日までに仕上げといたとっておきの決め球があるんだ!! 俺はマウンドに戻ると、土をならし始めた。 そして、打席の方へ身体を向き直すとチラッと颯ちゃんを垣間見た。 すると颯ちゃんは俺に向かって合図を送った。 トントン… あれは確か… 幼い頃に俺たちの間で決めた、 “自分らしく、堂々と” という意味の…。 颯ちゃんの奴、覚えてたのか……。 俺は突然妙に嬉しくなって、以前と同じように颯ちゃんに同じ合図を返した。 前へ |次へ |
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