《MUMEI》
澄んだ欲
私は直ぐにあの後から千石様の身の回りの世話をすることになった。


「……だから嫌なんだ千石は……軽々と何でも手に入ると思うなよ……。」

千秋さんが千石様の屋敷に自ら赴いたのは初めてのことだった。


「血の気が多いな」

千石様は氷室家の資産と億永さんの財産を守りながら命を狙う輩から身を護らなければならず、激務に追われ、屋敷に帰ってきたのは久しぶりだった。
千石様は千秋さんのことを本当に実の息子のように思っているのだと思う。(最初に屋敷に案内されたとき千石様は千秋さんをそう扱っていたように感じ取れた。)
千花さんの様子も定期的に聞いて気にかけている。


「……俺は必ず千石をこの手で殺してやる。」

私達があの隠し部屋から帰宅後、千秋さんは私を千石様から手に入れると宣言した。
千秋さんの私への執着もまた、過去に億永さんのお父様が築いた母に対する独占欲が起因した悪習だろう。


「氷室千石を殺すなら簡単に怒りを露にするような下劣な真似をするな……千秋、明日から“千守”がやってくるから仲良くしろ。」

余裕な対応をされて千秋さんはばつが悪そうに出ていく。
一応、千石様なりの教育のようだ。


千秋さんと千石様はいまいち親子関係を築けない。
互いに家族というものから疎遠だったからだろう。
かくいう私も同じで、千石様とは現在も主従関係である。


「……モモ、余計なことは考えるなよ。」

また、顔に出していたようだ。


「いえ、無理そうです。
二人の親子関係を取り持ってあげれたらいいと思っていましたが、原因は私のようなので……。」

私が千石様のものであるせいで、亀裂が生じてしまっている。


「あれもそのうち気付く。本当に欲しいものは自分で作らなければならないことを。」

千秋さんが屋敷に戻る姿を目で追いながら千石様は私を地べたに跪つかせた。

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