《MUMEI》

「今日は楽しかったなあ。」

世喜先輩が俺の手を繋いで歩く。その反対には副部長に繋がれて、白戸曰く『宇宙人』らしい。


「先輩奢ってくれてありがとうございます。」

お昼はファーストフードだったけど尋常でない美味しさだった。
今日のことは一生忘れないぞ。


「鬼久保君、気にしないで世喜は歩く財布とでも思えばいいの。」

副部長がからからと笑う。


「俺は小枝子先輩限定の財布ですよ?」

白戸ったら押せ押せで聞いてる方が恥ずかしくなる。


「明日、ちゃんと返すから」

副部長は手を繋ごうとしている白戸を跳ね退けながらクールに言い放つ。

駅で先輩達とはお別れだ。


「じゃあね鬼久保君。」

副部長が手を振ってくれたので振り返す。


「あ、そうだ弥一!」

世喜先輩が100メートル近くの距離を引き返して来た。
俺の高さに屈んで耳打ちしてきた。

『弥一が変な気持ちになったのは、俺の変態が移っただけ、別に自然なことだよ。』

先輩は息を弾ませて副部長のとこまで戻って行った。


「え……どうしたのあの人」

訝しげな面持ちで白戸は二人を見届けていた。


「……そっかぁ、白戸、俺は異常じゃ無かったよ。」


「今度はなにを吹き込まれたんだ?」

白戸は俺に吐かせようとする。


「へへへ、教えない!」

恋人同士で変態は自然に移るもののようだ。

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