《MUMEI》
カエセ
 副長は眉を寄せてそんな羽田を見てから、凜に視線を移した。

「君たちの言うことが本当だったとして、どうするつもりなんだ? 原因を探すにしても、いったいどうやって。手がかりはあるのか?」

凜は「それは……」と呟きながら羽田を見た。
羽田は少し考えるようにして首を傾げる。
ここに来るまでに何かわかるかと思っていたのだが、結局何もわからないまま着いてしまった。

「考えなしでここまで来たのか」

答えない羽田の様子に、副長は呆れた口調で言った。

「すみません」

羽田は恥ずかしそうに頭を下げてから言葉を続けた。

「でも、わたしは早く元に戻りたいんです。それに……そう、この子が何か関係してるかもしれないです」

そう言って羽田は頭の上に乗っているテラを指差した。
副長はテラを見る。

「そいつは、たしかレッカが飼ってた……」

「実は夕方マボロシに襲われた時、この子が鳴いたんです。その瞬間、マボロシの動きが止まった」

「動きが?」

「そう。そして、どうもその時からわたしがこんな状態になったような気がするんです。はっきりとはわかりませんけど」

副長は腕を組んでテラを眺めた。

「こいつは、そもそも得体が知れない。レッカには捨てておけって言ったんだが……」

「レッカにそれは無理ですよ」

凜の言葉に副長は苦笑いを浮かべる。

「それはそうだな。……それで、他に変わったことは?」

言われて羽田はふと思い出した。

「そういえば、さっきマボロシが消える瞬間、声が聞こえたような……」

「声? 誰の?」

「さあ……。頭の中に直接響いてくるような感じで」

「君にも聞こえた?」

副長の視線を受けた凜は首を横に振る。

「わたしは何も」

「そうか。で、なんて聞こえたんだい?」

「んー、よくわからなかったんですけど。悲鳴みたいな、そんな声で。……あ、でも『カエセ』って言葉だけはなんとなく……」

視線を上に向けて羽田は答えた。

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