《MUMEI》 「辞書ありますよ。」 差し出すとぴこぴこ首を振って喜んでくれた。 「……あ、見たいです」 明石君はさ行を引いてゆく。“千秋”とは長い年月と天子の誕生日、死の婉曲した表現を指す。 「テンコって誰ですかね?」 難しい顔をしながらた行を探す。 「テンシって読みますよ。」 全く可愛い……。 「天使ですかぁ、千秋様はきっと一番偉い天使様ですね……」 「千秋さんがっ…… 」 天使とはまた突飛な発想である。 千秋さんはどちらかといえば天界からその身を地獄に堕とした大天使ルシフェルだろうか……。 自分で考えておきながらあまりの嵌まり役に驚いた。 「“千秋”って素敵なお名前ですね……」 この汚れを知らない瞳と忠誠心がいつまでも続くといい。 「あ、用事思い出したので体温計をあのベッドで休んでる人に渡しておいて貰えるかな?」 思い付きに近いけど後悔はしていない。 彼への後押しだから。 前へ |次へ |
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