《MUMEI》
別れ
「ま、短かったけど、元気でな」
俺は弟に久しぶりに声をかけた。
「………」
無言。
弟はちらりともぴくりともせず段ボールに荷物を詰めていく。
俺は壁に寄り掛かりながら暫くその様子を眺めていたが、
すっと視線をそらしドアへと向かった。

「勇樹さん…」
「あ?」
「……いえ…、なんでも…ないです」


俺は振り返る事無く弟の部屋を後にした。


数日たてばまた赤の他人に戻る弟。


弟とその母親は明日この家を出て行く。

殆ど話た事もない。

いきなり家族になって、そしていきなり他人になる。


何故そうなったのかなんて俺は一切興味はない。


ただ、また親父の朝飯は俺が用意して、洗濯は夜中に干して、

食材の宅配サービスを復活させるだけだ。

そういえば、


おばさんの名前知らないや。


まあ、もういいけど…。




親父が何時もより早く帰って来た。
バイトに行こうとした俺を諭し、今日だけは家に居てくれと頼む。
俺は久しぶりにリビングのテーブルに着いた。

親父が再婚するのに合わせて用意された大きなテーブルセット。

弟は俺の隣の椅子に座り、おばさんは俺の斜めに座った。

テーブルには親父の好きな肉じゃがに天ぷら。
親父の前だけにビール用のグラスが置かれている。


「勇樹君の口に合うかわからないんだけど」
おばさんは控えめな口調でそう言った。親父に瓶ビールを傾け親父はグラスを掴む。
弟は小さな声でいただきますと言うとそれらを食べ始めた。

俺も小さな声でいただきますと言い、
久しぶりにおばさんの手料理を口に運んだ。


「な、勇樹、まだ離婚に至るまでの話してなかったんだが」
親父は日本目のビールを仕上げたところで切りだしてきた。
「うん、べつに興味ないし、反対しないし、話は別にいいよ」


再婚の時だって別に反対もしなかった。

だってこれは親父の人生だ。


「ごめんなさい、勇樹君、いきなり押しかけていきなり出て行くなんて」
おばさんは本当に申し訳なさそうに言い、俺に向かい深く頭を下げた。

「母さん止めてくれ!原因は俺なんだから、俺が兄さんを好きにならなかったらこんな事にはならなかったんだから」


……は?

すると弟はいきなり立ち上がり、親父とおばさんに向かい深々と頭を下げた。

「父さん、母さん!本当にすみませんでした!俺のせいで離婚する事になって!」

「はあ?お、おまえのせいぃ??」

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