《MUMEI》 「おっし…!!」 俺は自分を奮い立たせるように意気込むと、勢いよくベンチから飛び出した。 そして、自分専用金属バットを取り出す。 普通、金属性のバットと言えば良く球を飛ばすのに適しているが、俺のは少し違う。 標準より重くしてある。 親父から言われた通りにしたのだ。 何でも俺のためだとか…。 …まあ、どうだって良いけど。 俺はその場で素振りの練習を始めた。 キーン!! 俺より一つ前の打者の奴がツーベースヒットを打った。 次は俺の番だ。 「次、入りなさい。」 「お願いします。」 俺は審判に促されて打席に入った。 すると、俺の真上で試合を眺めている颯ちゃんと視線がぶつかる。 「お前、せめて自分が招いたミスくらい落とし前付けろよな。」 どうやら、先程のホームランのことを言っているらしい。 「あったり前だ。 俺を誰だと思ってんだ?」 そう言ってバットを担いでいない方の右手で、チョイチョイと挑発する。 颯ちゃんは、 「フッ、言ってろ。」 そう言うと、穏やかな表情で、 トントン… と、あの合図を俺に送った。 前へ |次へ |
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