《MUMEI》

僕に新井田さんは体温計を預けて消えてゆく。

確かに一つカーテンが閉まっていたベッドがある。
僕は言われた通りに体温計を持ってくことにした。
綺麗に囲んである白いカーテンをめくる……



「ヒッ……むろひゃあああ」

もはや、悲鳴。
言葉に出来ない。(今ので右の臑毛が五センチ伸びたのは内緒だ。)


ベッドに雄偉なお姿で横になられていた。
そんな、いつからいらっしゃったのだろう……



「……で。タマはどうしたいって?」

いつもの冷笑で迎えてくださった。
それが、かえって不気味なのです……!
ああああああ……モウダメダ……。
名前でお呼びしたいだなんて僕の軽率さにきっと嫌気をさしているに違いない。


「ちっ、チーズケーキを実習で食べて作りまして頂ければと氷室様に。」

あれ、日本語分かりません……!



「その、手の中のをか?」

氷室様の視線の先には僕の大混乱の握力により原形を留めていない元チーズケーキが……。

僕、どのくらい大馬鹿者?
もう、自分が情けない……涙出てきた……。


「ご、ごめんなさいぃ〜……ひむろひゃまがっ……僕と仲良くして下さっていることに胡座をかいて、僕なんかが作ったチーズケーキを食べさせようなどと……あわよくばお名前で呼ばせて頂こうなどと思い上がって……ぶわあぁぁん……」

なんて、愚かな僕。こんな、体温で生温い元チーズケーキ喰ろうてしまえ!


「……不細工……」

泣きながら食べる僕を見ての静かな罵倒だ。
手にはまだいっぱい元チーズケーキがこべり付いていた。


「……ふぐ、ぶぇっ」

しゃくり上げるのもやっとだ。


「三つ……あったな。」


「ふ?」

僕に千秋さんは淡々と話す。何やら条件らしい。


「三つ、“千秋”の意味を答えられたら名前で呼ばせてやるよ。」






…………今なら全人類滅亡したっていいかんじ……!

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