《MUMEI》
三人の会話
「あんな人、やだ!」

「そうわがまま言わないでくれ」

「そうだぞ。あんなヤツでも一応次期当主なんだからな」


(…ん?)


かがんでいる俺達の頭上から、三人の声が聞こえてきた。


不機嫌な、女の子の声と、なだめるような二人の男達の声。


ふと見上げると、窓が開いていたから、部屋の中で三人は会話しているらしい。

俺を拘束している男は、俺と目が合うと、口を塞いでいた手を離し、人差し指を自分の唇に当てた。


(しゃべるなって…?)


男が怖くて俺は頷いた。


本当に、怖かったのだ。


笑顔の消えた男の目が、鋭く光っていたから。


部屋の中の会話は続く。


しきりに『嫌だ』と繰り返す女の子。


地味で、かっこよくもなくて、面白くない人だから、嫌だと言う。


「他の子も、皆そう言ってるわ。皆、親に言われて仕方なく従ってるけど、私はもう嫌なの!」

「あいつと結婚すれば、一生遊んで暮らせるぞ」

「それに、俺も父さんも出世できるし」

「でも…」

「「頼むよ」」


女の子をなだめているのは、父親と兄である事はわかった。


それ以外は、女の子がものすごく嫌がってる事しかわからなかった。

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