《MUMEI》

「確かに、也祐は勉強以外に取り柄のないやつだ。

お前が嫌うのもわかるよ」

「そうでしょう? お兄様」

「おい! 迂濶にそういう事を言うな!」

「大丈夫だよ、父さん。あの忠実な執事はパーティーの準備で忙しいし、当の本人は…

毎回毎回、パーティー直前まで自室に引き込もってるじゃないか」

「それは、そうだが…」


三人は、相変わらず窓を開けたまま会話していて、その内容は俺達に筒抜けだった。


(う…そ、だ)


さっきから、女の子が嫌がっていた人が


男二人に馬鹿にされている人が


俺の…


「だからさ、抜けてる也祐の目を盗んで、好きなヤツ作っちゃえよ」

「…いいの?」


女の子の声が明るくなる。

「まあ、…うまく、できるなら…」

「できるできる!相手はあの也祐だし!
だから、…な?」

「わかった!」


女の子の機嫌が直り、三人の声が遠ざかっていった。

「…ごめんな、忍? 痛かったか?」


三人がいなくなった途端に、男は俺を離して、立たせた。


「泣くな、忍」


俺は、泣いていた。


痛かったからじゃなくて、神様が神様じゃなかったから。

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