《MUMEI》

 



「……下手クソ……」

ひむ……違う違う、千秋様は僕へ囁くように痛烈に一蹴される。
ガツンと罰を与えられるいつものと違うのでなんだか傷付いたような……


「すいません、ち、千秋様」

言い直してみた。
ちあきさま……なんて良い響きだろう。


「言い間違えればいつでも殴る準備はあるからな。」

やっぱり殴るんだ……!


「ハイィィ!千秋様!」

氷室様の語尾に強い低音のアクセントが付くと習慣でか、背筋がぴんとなる。


「タマ!」

千秋様に呼ばれる度に休まらない自分がいる。


「ハイ!」

これも反射だ。
千秋様の凝視に近い睨みで身が縮こまる……と、その鋭い目付きのまま布団の中へ沈んだ。


「……寝る。」


「あっ、ハイ!お休みなさい!」

下からなのに千秋様はなんて覇気のある睨みをするのであろうか。


「……次、妨げたら吊す。」

急いで両手で口を塞いだ。









「珠緒君あれほど一人で保健室に行くなとっ……」

螢君がカーテンを引き裂くような勢いで入って来る。


僕は首を振って話せないアピールをした。


「何事?!」

確かに、今の僕の切った毛の塊やら千秋様の就寝風景では理解に苦しむかもしれない。


「……妨げるな」

千秋様の一睨みで螢君が震えている。
僕も今のはご機嫌を損ねたと分かったぞう。


「ヒィィィィ……」

千秋様の見えないけど怒りの気迫に圧されて螢さんは後退りしてゆく。

少し休まれたせいか、千秋様はベッドから下りて、立っていた。


「千秋様が立った……!」

思わず口に出してしまったが気にも止めずに螢さんを捕らえた。

逃げようと抵抗するが、千秋様は素早い対応で螢さんの首に腕を掛ける。
へっどろっく、というやつだろうか。


「ギブギブギブギブギブギブギブギブギブ……!」

千秋様の腕の中で白目を剥いてしなだれてゆく螢さんは吊されているようだ。
僕は、あまりの衝撃映像に椅子に座ったまま腰を抜かしてた。


次の日は螢さんが首にコルセットをしていたことは言うまでもない。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫