《MUMEI》

「な…に?」

「ん? キスだけど? 知らない?」

「しってる」


知っているが、泣いている俺の頬や額に男の唇が何故あたるのかわからなかった。


「なんで?」

「う〜ん、何でだろう?」

自分からしておいて、男は真剣に悩んでいた。


「へんなの」

「お、笑ったな」


仕上げと言わんばかりに、男は唇を軽く重ねてきた。


「だからなんで!」

「…ねぇ、忍。也祐の執事が泣くほど嫌なら、やめてもいいよ」


男の話が突然飛んだ。


顔は笑っているが、何だか泣きそうにも見えた。


「なに、きゅうに」

「さっきの聞いただろう?

也祐はつまんない男だよ」

三人の会話を思い出して、俺の胸がズキンと痛んだ。

「でも、うんめいだから」

「義務感だけで側にいられても、也祐は喜ばないし、忍だって辛いだろう?」

「おまえ、なりひろさまをしってるのか?」

「忍よりはね」

「なにもの?」

「…さぁ?」


男の身なりはとても質素で、招待客にはとても見えなかった。


「ねぇ、やめれば? 也祐の執事なんて?」

「やめない!」


その時、俺は父の言葉を思い出した。


春日家の当主がもし無能なら、藤堂家の執事が…

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