《MUMEI》
入学式
「会長珍しく早いですね」
「当たり前だろ、今日は入学式なんだから」
「まさか会長が緊張してたりって?有り得ねーって」
俺は副会長、浅野の脚を軽く蹴ってそして椅子に座る。
浅野は薄く笑ってPCを立ち上げた。
「今年の新入生代表、入試の時388点だったんだって」
カタカタとリズミカルに打ち込みながら浅野は言った。
「あー聞いたよ、スゲーな、うちの入試問題他と違ってキツイのにな」
俺は今日の流れを確認し終え、来る途中買ったサンドイッチを開けだす。
「何言ってンだか、勇樹先輩だって相当な点数でトップだったんでしょ?しかも普段バイトしてて今だに首席、それでいて一番の美人」
「…美人はやめろって言ってンだろ。
気色悪い」
二年になった頃から突然男共にモテだした。
毎日の様に告られ、全身をいやらしい目で見られ、無理矢理キスされた事もある。
そんな俺を親友金谷と、一つ後輩の浅野が交互に守ってくれている状況で。
しかしこの二人も時々下心を出すから俺は結局気が抜けない。
「その新入生エライいい男なんだって」
「あーそう、…知るか」
俺は大きくため息をついて、サンドイッチに噛り付いた。
∇
式は順調に進み俺の挨拶も無難に終わった。
後は真剣なふりをして、最後にまた短い挨拶をするだけ。
ある意味副会長の浅野の方が大変そうだ。
プログラムが一つ一つ終わる事にマイクの前に立ち次の進行を促し仕切る。
まあ俺も一年前同じ事をしたんだけど。
そして新入生の挨拶を浅野は告げた。
3秒程おいて一年生の中から背の偉く高い男が壇上の校長に向かい、ゆっくりと出てきた。
「…あ…、嘘……」
思わず一歩前に踏み出してしまうと浅野がびっくりして俺を見た。
俺はハッとして後退する。
「会長、…知ってるんですか?…」
浅野は小さな声で俺に話かけた。
俺は何も答えられないまま、その新入生から最後まで目をそらせなかった。
マジかよ……
本当に?
あの頃より低くなった声。
更に大きくなった身長。
顔つきも大人びて…
俺の唇を初めて塞いだ男…。
久しぶりの再会。
最近やっと思い出さなくなったのに。
唇の感触も忘れてたのに…。
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