《MUMEI》

俺は無意識のうちに大親友の顔を見ていた。


颯ちゃんはどこか優しい表情を浮かべながらも、

「まぐれじゃねぇのか!?」


と、憎まれ口を叩く。


「はぁ〜?何蓮翔君のことバカにしてんのよ!!」


颯ちゃんの言葉を聞いた俺のファン達が、寄ってたかって颯ちゃんを締め上げる。


へっ!ざまぁみろ!!


俺は心の中でそう呟くと、


「じゃラストの回もしっかり見といてくれよな!!」


颯ちゃんを差し置いて、さっさと自分のベンチへと引き返そうとした。


「ちょっ!おまっ助けろよ!!」

颯ちゃんは言うが早いか、観客の波に飲まれていた。


「キャー!!本物の滝澤颯馬君に触っちゃったぁ〜!!」


「てめっ何処触ってんだよ!!…っ」


「キャー私も!!」


「わしも!!」


「…わっ!ちょっ!!…気色わりぃんだよっ!!さわんじゃねぇっ!!!
蓮翔も聞こえてんだろ!?

少しは助けろよっ!!」

颯ちゃんの助けの声を聞きながらも、


俺は……


無視した。

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