《MUMEI》

「だからさわんじゃねぇって言ってるだろ!!」

ガンッ!!!!


「キャー!!」


まあこうなることが分かっていたから助けなかったってのもあるんだけど……。


颯ちゃんは特に、他人から自分の身体に触れられるのを嫌っている。


幼い頃はそうでも無かったんだが……。


ベンチを出て、颯ちゃんを見上げると……


あちゃ…ぁ…


相当派手にやったらしい。


どうやらフェンスを蹴って自分にたかって来る人達を威嚇したみたいだ。

さすがに全国レベルの足で蹴られちゃあな……


一溜まりも無いだろう…。


俺を見に来た筈の観客は、颯ちゃんから1メートルいや、3メートル以内でも近寄ろうとしない。

唖然と立ち尽くしていると、極めて冷静な声が緊張した空気を和ませた。


「チェンジ!!」


審判が俺達に守備に回るよう指示した。


「ごめんっ勢いに乗れなかった…」


チームメイトが俺に頭を下げて来る。


「ドンマイドンマイっ!!

ラストの回、きっちり決めてこうぜ!!」

そうして颯ちゃんを盗み見ると、ククッと苦笑いしながらマウンドへ駆けて行った。

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