《MUMEI》
"怒り"と"悲しみ"は混ざり合う
医十印は死鬼が道路で猫を抱きかかえ、安堵の顔を見せているのを見付け、事のだいたいを把握した。

車が空を飛んだことも、ハンドルを切って他の車に乗り上げて飛んだのだろうと推測した。

…落とし前を付けるつもりだったが…あれでは俺が手を出すだけで俺が悪者扱いに成ってしまうな…

そんな事を考える医十印はすでに落とし前の事は忘れようとしていた。とりあえず声を掛けるため死鬼達に近寄る。

「…おい。」

「…」

医十印が声を掛けると死鬼は安堵の顔を警戒するそれへと変化させる。

「意外だ…お前のような恐ろしい奴でもそんな事をするんだな?」

死鬼は大して気にした様子もなくゆっくりと薄く笑いながら口を開く。

「目の前で何かが奪われるのは許せねぇタチなもんでね」

「…なるほどな」

対した医十印は面白いモノを見た子供のように静かに笑った。そこに呆れ顔を混ぜ込みながら。

医十印は身を翻す。

「おい?何処行くんだァ?まだテメェの用に会っちゃあいねえぞ?」

「答えよう…お前は俺が思ったような奴じゃなかったんだよ」

「?なんだぁ?そりゃあ?」

その問いに医十印が答えようとして振り向いた。
その瞬間、後頭部に稲妻のような衝撃が走った。なにが起こったのか、理解よりも先に目に入ったのは死鬼や後ろの2人も同じように打たれ倒れていく景色だった。



───目を覚ますと、そこは何処かの倉庫のように見えた、何故こんな所に居るのか、医十印が思い出すよりも先に頭の痛みが強制的に思い出させてくれた。

…そうか。何者かに殴られたんだっけか?ここは何処だ?こんな所初めて見る。…

医十印はよく仲間に集まってもらうときに適当に誰も使っていない空き家や廃屋などを手配したりするが、この場所はそのどれにも当てはまらない見知らぬ場所だった。

「チッ…起きたかぁ?寝坊助野郎…」

医十印は自分の隣に居る死鬼に気付き、同時に自分の手に縄が結んであることに気が付いた。

「尋ねよう…お前もか…?」

「見りゃあわかんだろぉよ!?頭沸いてんのかテメェ!?」

「いや…後の2人はどうした?」

「ああ?アイツ等なら上に居んだろ?」

「…上?」

意味が分からず医十印は死鬼が顎をしゃくりあげた上を向く、するとそこには天井から吊り下げられた快楽とミスアが居た。

特に外傷はないので危険はとりあえず無いだろうと判断する。ただ、未だに気絶しているのは気になったが今はそれ所じゃない。

とりあえず縄だけでも取れないかと腕を動かしてみたが、キツく縛ってある所為か縄がとれる気配はない。

そんなことをしていると不意に奥から人が現れた。

「やあ、ようやく起きてくれた。生きてる?生きてるなら自己紹介をしようか。俺は喜多角正(きたかくまさ)よろしく。」

「…なっ!?お…お前は!」

「こんにちはですね?"医十印さん"?"死鬼君"?」

そこにいたのは学校で死鬼にのされたはずの不良集団のリーダーであり、医十印の部下だった男だ。

「尋ねたい…何故お前がここに…?」

それに対し喜多と名乗った男は微笑を浮かべながら淡々と言葉を紡いだ。

「あれぇ?分からないんですかぁ?医十印さんともあろうものが?…そうですね…落ち着いて周りを見てみれば分かりますよ?」

医十印が周りを見回すと見知った奴等ばかりいくつかのグループを組んでこちらをニヤニヤと見ていた。

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