《MUMEI》
開いた口が塞がらない
「忍、口を閉じなさい」

「すみません」


俺は、もう何度も同じ注意をされていた。


(だって…)


一番最後にゆっくり現れて

ありきたりな挨拶を、たどたどしく終えて


例の、三人組とも仲良く談笑している





サル、が。


「忍、口」

「はい」


(だって)


清也様から離れてこっちにやって来る


サル、が。


「忍、こちらが也祐様だよ。…忍? 挨拶しなさい」


(だって!)


改めて、自分のした言動を振り返って、俺は、パニック状態だった。


「はじめまして、忍君。…じゃあ、またね」

「あ…う…あ…」


神様に会ったら言おう


そう思って、何度も練習しておいた挨拶は、頭からスッポリ抜け落ちていた。


「珍しいな」

「ごめんなさい」

「いや…也祐様が」


父は、去っていった也祐様を見つめていた。


「あんなに自然に笑いかけたお姿は、久しぶりだ。
…あの方が、パーティーに来なくなって以来かもしれない」


俺は知らなかったが、この時点で、也祐様は賢すぎて、周りが見えすぎて、もう大人や同年代の女性が誰も信用できなくなっていた。

…たった、一人の女性を除いて。

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