《MUMEI》

「なんだよ、知ってたのか」
『仕方ないだろう、言おうにもなかなか顔合わせられないんだから』
「まーそうだけど」
『それより修平君は元気そうだったか、また大きくなったんじゃないか?』

「あー、大きかったな。更に、大学生みたいだった」
『…そうか』
久しぶりに聞く親父の声。
深夜遅くバイトから帰宅すれば親父は先に寝ていて、朝は朝で親父が遥か先に出て行く。
去年から本社勤務になった親父は片道2時間もかけて出勤している。
おかげで必ずやってた唯一の親子交流、親父への朝食作り
行ってらっしゃいの挨拶は無くなった。だって4時起きなんか、絶対に無理だ。
「じゃあ俺もう戻るから」
『無理するなよ、本当はバイトなんかしなくてもいいんだから』
「無理なんかしてねーし…」


俺は携帯を切り、ポケットにしまった。



「また目の下に熊、可愛い熊ちゃん」
「はっ倒されたいか?いい加減にしろ」
「会長に倒されたい、出来る事ならベッ
ドの上で」
「…今すぐ殺されたいみたいだな浅野…、むかつく、うぜえ」
鋭く睨みつけると浅野は俺から離れいつもの定位置に座った。
他の役員はいつもの俺達のやり取りに慣れまくりでなんでもないように業務をこなしている。
生徒会なんて所詮生徒達の雑用係。
集まっては書類作り確認の繰り返し。
うちの学校は成績で強制的に役員を決める。
自分で言うのもなんだが勉強出来る自分がちょっとだけ恨めしい。
「そういえばあの一年…、あの挨拶した奴」
書記の前原が口を開いた。
「あ〜あのイケメンの男?どうかした?」
浅野は俺をみながら前原に言う。

「さっき早速二年に告られてた」
「マジかよ、で?」
俺は浅野から視線をそらす。何なんだ浅野の奴…勝手に勘違いして…。
俺と修平は赤の他人なんだ…別に…
何も…。

「好きな人がいるからってばっさり断ってたな、だよな、
あれで恋人いないのは有り得ねーだろ」
前原は神経質に眼鏡を直し、書類をプリントしだした。
そしていっきに生徒会室は修平の話題で盛り上がった。

俺は無言で立ち上がりドアを開ける。
「会長?」
浅野の声。
そして皆沈みかえった。

「……」

俺は無言のままドアを閉めた。


なんだかわからないけど、突然呼吸が苦しくなった。


泣きだしたくなった。

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