《MUMEI》
忘れられないやりとり
「そうだけど…でも…」


そこで、何故か姫華様は俺を見つめた。


俺は、二人の会話に入っていく事が出来ずに、ただ立っていた。


「私の事はいいから、幸せになりなさい」


まるで、父親が娘に言うような言葉だった。


「…オヤジ臭い」

「酷いな」


そして、二人は顔を見合わせて笑った。


「それにしても、何で田中にしたんだい?」

「屋敷の周りが田んぼばっかりだから」


また、二人は笑い合った。

「おれ、わすれてませんか?」


俺はたまらず口を開いた。

「忘れてませんよ〜」

「ね〜」


(なんだよ、二人して)


膨れる俺を見て二人が微笑んだ。


そして、姫華様は帰り際、真剣な表情で俺に告げた。

「也祐をお願いね、忍」

「とうぜんです」


即答する俺の手を、姫華様はギュッと握りしめた。


「本当に、お願いね、忍。どんな也祐も、…受け入れるのは無理でも…

ずっと、ずっと

側にいてあげて」

「うけいれますよ?」


俺の言葉に、姫華様は、何故かものすごく悲しそうな顔をした。


これが、俺と姫華様の最初で最後の出会いだった。


このやりとりを、俺は一生忘れない。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫