《MUMEI》
進学
「おはよう、谷口」

「おはよう、永井さん。…あ、永井さんは卒業後とか考えてる?」

「あたしは就職する予定だけど?谷口は就職以前の問題か」

「就職?どんな所に就職したいの?」

「まだ特には決まってないの」

「そっか……」

オレと有理は三者面談というものの経験があまりない。物心ついた頃には両親はいなかった訳だし。

「谷口くんは学業と芸能活動を両立させているから、どちらも許されたのよね?」

進路室の先生が優しく話し掛けてくる。

他の先生がオレの成績を調べているらしい。

「具体的な大学とかはある?」

首を横に振る。

「最近まで大学なんて一切考えてなかったですから」

「じゃあどうして急に?」

「なんとなく……」

「まぁこれからどんどん自分の気持ちがわかってくるわ。一緒にゆっくり考えていきましょうね」

「ハイ」

「酒井先生、谷口くんの成績です」

「あ、ありがとうございます」

「すばらしいですね。これならいいとこ狙えるんじゃないですか」

「そうですね」

先生はオレの成績表を見て何か考えてる様子だった。

「ちょっとこっちでいくつか候補上げておくわ。それまでに谷口くん、あなたは自分が理系なのか文系なのか、それから何に興味があるのかを考えていて」

「何に興味があるのか?例えば?」

「例えばそうね、政治とか環境とかそんな感じよ」

「わかりました」

興味あることかぁ。改めて言われるとよくわからない。

オレは何に興味あるんだ?

今のところはやっぱり聡理だよな〜。

……って真面目に考えないと!

「流理さん!」

「あ、環さん。今お帰りですか?」

「ずっとここで待ってたんですか?」

こことは環さんの部屋の前。何も連絡無しに来て、待っていた。

「私が帰って来なかったらどうしてたんですか?それに芸能人としての自覚がないみたいですね。無防備すぎです!」

環さんに怒られながらオレはバレないように笑った。久しぶりに怒られた気がする。

「今日はどうしたんですか?最近は真っ直ぐ家の方に帰ってたみたいですけど」

「オレ、大学進学を考えてるんですけど、先生に何に興味があるか考えててって言われて困ってるんです。ずっと大変だったから、特に何もなくて」

「流理さん、今は聡理ちゃんに興味津々じゃないですか」

「……そんなんでいいんですか?」

「当然です!それから保育士とか、学校の先生って夢が膨らんでいくものなんですよ」

「……でもオレ、今の仕事辞めるつもりはないんです」

「なら子供用品のデザインとか施設の設立とかなんでもできるじゃないですか」

環さんってなんかやっぱりすごい人だよな〜って思う。

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