《MUMEI》

僕は正平を連れて新しいアパートの扉を開く。

パンプスが玄関にある。祈るように中へ進んだ。



    ガチャーン

硝子コップが母さんの真下で割れている。

「あら…、お帰りなさい」母さんが肩で息をしながら言った。

父さんはテーブルに手を載せて、俯いたままだ。






嫌な静寂。

「あ!ハンバーグ!」正平が、テーブルへ駆け出すのを静止する。


「向こうの部屋で食べるよ」僕の顔は、引き攣っていないだろうか?
 不安だ。

扉が閉まると、前のアパートでよく聞いた言い合いが響いてきた。

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