《MUMEI》
三月十三日
(喜んでくれるかな)


その日、俺はランドセルの横にクッキーを置いてベッドに入った。


次の日はホワイトデーで


初恋の女の子に、そのクッキーを渡すつもりだった。

(わたす時、何て言おう?)

ドキドキして、なかなか眠れなかった。


カチャッ


…?


扉が開く音がして、俺は起き上がった。


部屋は真っ暗で、何も見えなかったが、誰かが近付いてくるのがわかった。


「…だれ?」


ギシッ


何も言わずにその人はベッドに腰を下ろした。


「…わっ?」


突然抱きつかれた。


「…忍」

「だ… 旦那、様?」


(だよな?)


小さな声だったが、それは確かに久しぶりに聞いた旦那様の声だった。


…はず、だ。


ドサッ


体が倒れた。


「『也祐』」

「え?」

「也祐って呼んで」


俺を押し倒した旦那様は、俺に顔を近付けてきた。


「也祐…様?」

「様なんかいらない! …いらないよ…」


そのまま、唇を塞がれた。

「…ンッ?…ンンッ…」


(…何?)


口の中に、ヌルリとした感触がした。


(何? … キモチワルイ)

「愛してる、忍」

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