《MUMEI》
一週間の出来事
泣き叫んでいる間にいつの間にか旦那様は消えていた。


アンナノ、チガウ


俺を愛していると言った声も、俺に触れた手も唇も舌も確かに旦那様の物だったが


チガウ、チガウ、チガウ!

八歳の俺に旦那様の行為と気持ちを受け入れる余裕は無かった。


結局俺は、それから一週間部屋に籠っていた。


…クッキーは、粉々になっていた。


(アイツがやったんだ)


それは間違い無く、女の子に嫉妬した旦那様の仕業だった。


「…忍。お父様が久しぶりに戻っていらっしゃったわよ」

「…行かない」


俺は、母から顔を背け、ベッドに潜り込んだ。


「旦那様も一緒にお戻りになったわよ」

「行かな…」


その時、俺は母の言葉に疑問を覚えた。


「何で、一緒なの?」


父は清也様の執事で、旦那様とは別行動のはずだった。


清也様は、今は体調を崩されて入院中だから、父はずっと付き添っていたのだ。

「忍。よく、聞いてね」


母は真剣な表情で、俺と同じ目線になるようしゃがむと、俺が部屋に籠っていた間の出来事を説明した。


そして俺はあの夜に、清也様が亡くなった事と、父が今、旦那様の執事をしている事を知った。

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