《MUMEI》
後悔
(どうしよう)


俺は、自分が言った言葉と旦那様の言葉を振り返り


自分がとんでもない事をした事に気付いた。


清也様は、姫華様以外で唯一旦那様を『也祐』と呼んでいた。


二人は、とても仲の良い親子だった。


清也様は、身内の中で唯一旦那様が心を許していた存在だった。


(どうしよう)


そんな、大切な父親を亡くして悲しみにくれていた旦那様を、俺は突き放してしまった。


全身で拒絶して、大キライだと泣き叫んだ。


その上、一週間も自分の部屋に籠って、清也様の葬儀の手伝いもせず、出席もしなかった。


「どうしよう、俺…」

「大丈夫よ、忍」


途方に暮れる俺に母が微笑んだ。


「何が?」


母は、俺と旦那様のやりとりを知らないはずだ。


「旦那様が、忍の部屋に行ったのは知ってるの。『びっくりさせちゃったから、忍はしばらく出てこないだろう』って、旦那様は笑ってたから」

「『笑って』?」

「だから、何があったかは知らないけど、大丈夫よ。
旦那様は忍を嫌いになってないから」


俺が旦那様に何をされたか知らない母は、俺の頭を撫でながら、微笑んだ。

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