《MUMEI》
体育館入口付近
「あの、一応言っておきますけど、美緒さんは多分先輩が想像してる感じじゃないと思います」


(て、…聞いてないな)


俺が美緒さんの伝言を伝えた時点で、葛西先輩は舞い上がっていた。


(まぁ、いいか)


一度電話をすれば、美緒さんが葛西先輩が想像する大人の女性ではなく、女子高生並のハイテンションキャラだとわかるのだから。


「本当にありがとう田中君!」

「い、いえ…」


俺は、体育館の入口付近で葛西先輩を待ち伏せして、その場で伝言を伝えていたから、葛西先輩に大声を出されて少し困っていた。


「浮気すんなよ、雅樹」

「…馬鹿」


(こらこら、人前だぞ)


甘い雰囲気の葛西先輩と祐を、俺は睨みつけた。


「平気平気。親友同士のちょっと暑苦しいやりとりで通ってるから」


祐が『な?』と言うと、葛西先輩が頷いた。


「それに、新入生は体育館にいるし、運動部の連中は練習あるから、意外と見てないし」


(確かに)


見ていく連中はいたが、足を止める者はいなかった。


「文化系は、部員獲得に燃えてるからさ」


(確かに)


出番を待つ文化系の部員達は、真剣な表情だった。

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