《MUMEI》
姫、入場
「なぁ…」

「ん?」

「あの子の言ってる姫って…俺じゃないよな?」


恐る恐る質問すると、祐とその後ろにいた葛西先輩が目を丸くした。


(だよな〜)


いくら祐や柊が大袈裟な事を言っていても、新入生が俺を姫と呼ぶなんて…


「お前以外に誰がいるんだよ! な〜、皆、吾妻の姫って言ったら?」


祐が『せ〜の』と掛け声をかけた。


「田中祐也!」


俺達の近くにいた連中が一斉に叫んだ。


(な、何でだよ!? 俺、男だぞ!?)


「田中君? いるの?」


体育館から部長の声がした。


マイクで呼ばれたから、一気に新入生がこちらに注目した。


「なあなあ、祐也って帰宅部で、今バイトもしてないんだよな」

「そうだけど…それが、」

ドンッ!


『何』と言おうとした俺の背中を、祐が押した。


「と、…と、と…」


俺はヨロヨロしながら、体育館の中に入った。


(ど、どうしろって言うんだ?)


俺の登場に、体育館は急に静かになった。


「田中君! こっちに来て!」

「…は?」


呆然とする俺を、演劇部員達がステージ上に引っ張り上げた。


(なんなんだ? 一体?)

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