《MUMEI》

バックスタンドを見上げると、148kmを示していた。


ヨッシャぁ!!
いつもの調子が戻って来た。


思わず拳を握り締める。

しかし次の瞬間、言い様も無い不安に駆られた。

須藤……。


須藤は一振りもせずに、ただずっとホームベースを睨み付けていたのだ。


その表情からは、何も読み取ることが出来ない。


様子身か?それとも……何なんだ??


ストレート一本だけで…と言う決意が、一瞬心の奥底で揺れる。


その時、


「桐海蓮翔っ!!!」


俺を呼ぶ声が聞こえた。

声のする方へ目を寄せると……


「颯……」


しかめっ面をした颯ちゃんがいた。


颯ちゃんは須藤よりも迫力ある表情で無言で俺をじっと見ていた。


何かを訴えるようにじっと………。


その顔を見てハッと我に返った。


今は須藤との真剣勝負なんだ。


負ける訳にはいかない。

そうして打席に目線を戻すと、須藤の顔が飛び込んで来た。


さっきまで地面を睨み付けていたはずなのに、挑発するような姿勢でバットを構えている。


表情は変わらず、早く投げて来いよ、とでも言いたげな雰囲気だ。


受けてたってやらぁ!!


俺は再び決意を固めて第2球をミットへぶち込んだ。


勿論、ストレート一本だけで。


須藤のバットが空を切り、


ズドン!!!


爽快な音が木霊した。


俺は自分の手の平を見つめて、確かな手応えを感じていた。

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