《MUMEI》
紫の運命
「おにいちゃま、もうだいじょうぶ?」

「紫」


名前を呼ぶと、今年三歳になる小さな妹は、ゆっくりと部屋に入ってきた。


「大丈夫なら、着替えろ」
「…はい」


後から来た父の顔を、俺はまともに見れなかった。


「ゆかりね、きょうはじめてだんなさまにあうの」


小さな紫が嬉しそうに笑った。


(昔のおれみたいだ…)


初めて会った日の事を俺は、思い出していた。


そして、俺達四人は旦那様の部屋に向かった。


(…良かった)


二人きりで会うのが怖かったから、三人が


特に、母と妹がいて俺は安心していた。


「失礼します」

「…あぁ」


旦那様の声が、やけに冷たく聞こえた。


(…やせた?)


一週間ぶりに見た旦那様を見てそう思ったが


「少し痩せたね、忍」


逆に心配されてしまった。

「あ…」


旦那様は椅子から立ち上がると、こちらに向かって歩いてきた。


「君が、紫?」

「はい、だんなさま!はじめまして」


旦那様は俺を素通りした。

「初めまして。紫は将来何になるの?」


(何って…)


普通、藤堂の娘は春日の令嬢の家庭教師か、紫なら、母と同じ庭師になるしかなかった

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