《MUMEI》 ミルクティー突然の雨に打たれていた いきなりの事に傘など持ち合わせていなかった高城 ちずるは、取り敢えず雨宿りをと、手近にあった電話ボックスへと掛け込んでいた 「何でいきなり降ったりするのよ。天気予報のウソツキ!」 すっかり濡れてしまったスーツをハンカチで拭いながら 狭いボックスの中で八つ当たりに喚く しかしどれ程喚いた処で雨が止む筈もなく ついた溜息で取り敢えずは喚く事を止めていた 「……もうこのまま濡れて帰ってやろうかな」 既に濡れている身で、雨を凌いだ処で無駄だと 高城は濡れながら帰る事を選択した様で ボックスの戸に手を掛けた その直後 ボックスのすぐ前にあった小さな店から男が一人現れた 真っ直ぐに高城の入っているボックスへと近く歩いてくる 「な、何?」 戸惑う高城へ 男は二、三度ボックスのガラスを叩いた後戸を開いて 高木へと笑って向ける 「俺、ソコで喫茶営んでる者です。さっきからずっと此処に居ましたよね。良かったら、ウチで雨宿りして行って下さい」 お茶、奢りますよ。との申し出 突然すぎるソレに訝し気な顔をした高城だったが ソレに構う事を相手はせず、高城の手を取ると半ば強引に店の中へ 「ちょ、ちょっと……!」 異を唱えようと口を開いた高城だったが 店の戸が開かれ、その可愛いらしい内装と、香ってくる甘い菓子の香りについ反論の言葉を忘れてしまっていた 「か、可愛い……」 外では、沈着冷静で可愛らしい物になど興味が無いと思われがちの高城だったが、その実可愛らしいモノ好きという女性らしい内面を持っていて 様々飾られている雑貨に、つい声に出て出てしまっていた その高城の様子に、相手は微かに笑むと 「座って待ってて下さい。今、お茶淹れますから」 エプロンを身に着けキッチンへ 言われた通り、高城は手近な椅子へと腰を降ろすと受け取ったタオルで取り敢えず水気を拭いて取っていた 「……アンタ、此処一人でやってんの?」 香ってくる紅茶の香りに心落ち着かせながら キッチンにて作業する相手へ何となく問う 「はい。一昨年にそろそろ隠居生活がしたいって言い出した親父の後を継いで」 「それで、この可愛らしい飾りとかはアンタの趣味なわけ?」 テーブルの上に飾られている小さなクマの置物を指の先で遊ばせていると キッチンから出てきた相手が、淹れたての紅茶を高城の前へと置きながら 「やっぱり、男の俺がこんなの集めるのって変ですよね」 と苦笑を浮かべて見せた 別に変だとは思わない 寧ろこの青年にはに合っている気がして高城は首を横へと振っていた 「あんたに、似合ってると思うけど?この店の雰囲気」 素直な感想を言ってやれば、相手は照れたような、だが嬉しそうな顔で 高城の前へとカップを置いていた そこに注がれる甘い香り カップの中に満ちていくのはミルクティーで どうぞ、と勧められ 高城は礼を言って一口 優しい甘さが口の中に広がって、胸の内が解れていくような気がした 「美味し」 穏やかに流れ始める時間に、ほっと一息つけば テーブルの上に、何かが置かれる音が鳴る ソレを見てみれば 「……これ、チーズケーキ?」 内装と同様に可愛らしく飾られたチーズケーキがそこに 食べていいのかを問えば、相手は頷いた 「試作品なんです。良かったら、食べてみて下さい」 フォークを差し出され、高城はソレを受け取ると一口 甘酸っぱいブルーベリーソースが中に入っていて その甘味とのバランスが丁度良く、高城好みの味だった 「……何か、アンタって幸せそう」 楽し気に細々と働く相手へ 食べる手は止めず徐に高城は声を向ける いきなりのその言葉に一瞬の間が空いた後 「幸せ、ですよ。毎日、楽しいですから」 との返答 向けられた笑み そのあまりの純粋さに高城は何故か照れてしまいあからさまに顔を伏せていた 段々と赤くなっていく顔を誤魔化すかの様にミルクテイーを飲んでいく 「……雨、止まないな」 独り言に呟けば、だが相手は何を返す事もせずに 戸に掛っているopenの札を裏に反していたそろそろ閉店時間なのか、表にある表にある植物などを中へと入れ始める 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |