《MUMEI》
完全実力主義
「ゆかりは、だんなさまのしつじになりたいです!」

「なっ?」


唖然とする俺を無視して、旦那様は笑顔で告げた。


「春日の執事は藤堂の者だと決まっているけど、『息子』である必要は無いからね」


『忍である必要は無いからね』


そう、言われた気がした。

「紫が忍より優秀なら、私は紫を選ぶよ。

…頑張りなさい、二人とも」

「はい!」

「は…い」


頭に手を置かれながら、喜ぶ紫と青ざめる俺を見て、両親は複雑な表情をしていた。


「あぁ、それから忍。この前は悪かったね」


『この前』


俺の体がビクッと震えた。

「そんなに怯えなくても、大丈夫だよ。もう、忍の部屋には行かないから」

「ゆかりのところに行くんですか?」


そして、今度は紫に俺と同じ事をするのだろうか。


真剣に訊く俺を、旦那様以外の三人は不思議そうに見ていた。


「行かないよ」


旦那様は笑った。


いつかの、初めて会った時に開かれたパーティーの時のように。


「もう、誰の所にも行かない」


それは、俺には


『もう、誰の事も愛さない』と言っているように聞こえた。

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