《MUMEI》

山村が驚いた拍子で口笛を吹いたのが聞こえた。

観客席からも驚愕の声が聞こえる。


ちゃんとストライク取ったはずなのに…。


不思議に思いながら颯ちゃんを見やると、颯ちゃんはニヤリと笑ってバックスクリーンを指差した。


それに吊られて俺も振り返って見てみる。


「!!!?????」


バックスクリーンは150kmを示していた。


150kmなんて久し振りだ。


俺は高鳴る胸を抑えて仕切りに深呼吸を繰り返した。


まだ後一球残っている。

まだ気を抜いたらいけない!!!


俺は今までの気持ちを振り捨てるように帽子をかぶり直した。


相手チームはあと一球だけしか無いこともあって完全に諦めている。


さっきから全く声援が聞こえてこない。


だが、逆に須藤は目をギラつかせて俺を見据えている。


「…大した根性だな。」


俺はポツリと呟くと、この試合を締めくくるであろう、最後の一球を投げた。


さっきよりも全身に力が漲るのを感じた。


きっとこの一球も凄い筈。


そう思いを褪せながら、真っ直ぐに進むボールを見ていた。

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