《MUMEI》
意味のない告白
「前田君」
「…はい」
廊下を歩いているところを呼び止められて見れば知らない顔の上級生。胸元の校章の色で二年だと判断出来た。

「何か?」
静かに話しかける。目線がずっと下になる背の低い上級生はうっすらと頬を染め、それでも俺をじっと見つめたまま言った。
「前田君に一目惚れしました、俺と付き合って下さい」

周りが一斉に注目してきたのがわかる。しかし一学年の廊下で先輩からの告白だからおかしな冷やかしをする者は居ない。
ざわつきが酷く静かになって、俺はそんな中言った。


「すみません。気持ちは凄く嬉しいんですけど、俺好きな人いるんで」


先輩はわかったと小さく言うと足早に立ち去った。うっすらと涙を浮かべた顔が少し気になったが一分後には顔なんかすっかり忘れた。

興味の無い人間の顔は10回以上会わないいと覚えられない。
こればかりはどうしようもない。




自宅に帰って来てまずやる事は勉強。
かなり努力しないと物覚えが悪いから、本当になによりも机に向かう。



これしかあの人に近づくすべを知らない。



あの日唇を思わず奪い、抱きしめたら余計愛しくて堪らなくなった。


傍にいるだけでいい、隣に立ってみたい。

またあの声が聞きたい。


それだけで良いから、必ず満足してみせるから。


本当はあの人を俺の自由にしたい。

でも


苦しい。

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