《MUMEI》
去年の俺
その日の放課後。


「というわけで、私、今年も祐也と劇だけは出るから」

「もちろん、そのつもりで役決めてありますよ」


志貴の言葉に、部長は薫子スマイルで答えた。


「それで…」


志貴は屋代さんから聞いたある人物の姿を探していた。


そこに、祐と一緒にやってくる『彼』の姿が見えた。


「近寄るな!」

「え〜、冷たいな〜。傷付くなぁ〜」

「お前といると、注目浴びるから嫌なんだよ!
俺は普通に地味に高校生活を送りたいんだ!」


何だか去年の祐と俺を見ているようだった。


「結構、いい素材かも」


(うわ、…)


そう呟くと、志貴はすぐに『彼』の元へ駆け寄った。

(本当に、去年の俺だな)


志貴に絡まれタジタジになっている『彼』を俺は助けようと思った。


が…


「あんたまで来たら、余計に目立つからやめて下さい!」


(そんな…)


俺は、『彼』に言われてかなり凹んだ。


[祐也を傷付けるなんて、酷いよね。で、大道具希望の彼。一体何者なの?]

「頼」


いつの間にか、俺の隣に来ていた頼が不思議そうに首を傾げた。


[彼は、橋本保(はしもとたもつ)君は、祐と希先輩のいとこだよ]

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