《MUMEI》

「・・・っいやぁーー!!」

不意に、速度が緩やかになった。

目蓋に感じていた強い光も感じない。

あの歌声も消えていた。

風も幾らか穏やかになり、自分の髪や衣服をはためかせているのを感じつつ、恵はゆっくりと目を開く。

「なっ・・・!?」

下方に見渡す限りの大地が広がっていた。

荒野と呼ぶに相応しいその紅い大地に、砦の様なものが立っている。

砦の周囲に、沢山の人だかりが見えた。

その砦に立つ黒い人影が――恵に向かって手を差し伸べる。

「・・・たすけてっ・・・!」

恵の両手がしっかりと、その人影の両肩を掴む。
相手もまた、恵の腰に両手を添え、しっかりと大地に足を着けてくれた。

よろけながら、ほっと息を吐く。

(生きて・・・る?)

「――おい」

頭上からの声に、ハッと顔を上げる。

背の高い男が、腕の中の恵を見下ろしていた。

男が着ている黒い装束は中国の衣服を思わせる様な縦襟で、所々に金の刺繍が施されており、短髪ながらも襟足の髪のみ僅かに長い頭に黒い布を巻いている。

幼い頃に読んだ絵本『スーホの白い馬』を思わせる様な形の頭布から顔に目を転じると、端正な顔立ちの中から紅く燃ゆる両の目が恵を射ぬく様に見つめていた。

(・・・紅い――目・・・)

「あ、あのっ・・・」

「・・・何モンだ」

恵を睨み据えたまま、男は低い声で問うた。

「あ、あのっ、あたし・・・」

言い掛けた時、大地が揺れ出した。

「イェンシン、来ます!」

男の傍らに立っていた、これまた背の高い、秀麗な顔立ちの男が、声を上げる。

(・・・『イェンシン』?)

それが、男の名前だろうか。

「チッ・・・」

男――イェンシンが、眉間に皺を寄せ、舌打ちする。

「ティエン、指揮を取れ。ベンジョン!女を見張れ」

イェンシンの声に答える様に、恵の背後に大きな影が立つ。

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