《MUMEI》

イェンシンが地上に向かって降下していく場所に、先程の黒馬が飛び込んでくる。

息が合った様に、イェンシンが馬上に着地する。

馬は、疾走を続けた。

イェンシンは馬上に立ったまま長めの手綱を取り、馬を操ってゆく。

(何・・・あの人・・・)

手から炎が出ていた。

身のこなしも鮮やか過ぎる程軽やかで、人間技ではない。

「發射!(ファーショー)」

ティエンの合図に一斉に矢が放たれる。

騎馬隊は――成る程撹乱だ。
化け物の周囲をばらばらに走り抜けながら、剣や銃や槍で攻撃する。

化け物は標的を定め難い様子だ。

怒号を上げ続ける。

イェンシンが右手をかざすと、再び炎が発火した。

駆け巡る騎馬隊の間を縫って、化け物の周囲を駆け出すと、炎が円を描き始めた。

――ヘイフォンホァン!!

――ヘイフォンホァン!!

男達が駆けながら口々に叫ぶ。

讃える様な歓声の中、イェンシンが馬を駆る。

炎が円を完成させた瞬間、男達は一斉に円外に躍り出る。

――ヘイフォンホァン!!

――ヘイフォンホァン!!

歓声を全身に浴びながら――イェンシンが鞍を蹴る。

化け物の頭上に飛び上がると、右手から新たな炎が発火し、青竜刀の様な形に燃え上がる。

化け物が閃光を放つ。

空中で身を交わし、イェンシンは炎の刄を化け物の頭頂部に突き立てた。

――刹那

ドンッ!!

円内に勢い良く火柱が立ち上がる。

歓声が一際高くなる。

――ヘイフォンホァン!!

――ヘイフォンホァン!!

火柱を背景に、一騎の黒馬が砦に向かって駆けてくる。

その背に――鳥の様にひらりと舞い降りた黒衣の男。

(・・・黒い・・・鳳凰・・・)

――黒鳳凰だ。

何故かそう思った。

いつのまにか陽は傾き、薄い夕闇に燃ゆる火柱を背に、頭巾と上衣の長い裾を風にはためかせて、イェンシンが立ったまま馬を駆る。

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