《MUMEI》

――ベンジョン

「えっと・・・さっき、倒れてから寝てた。ずっと。水、飲む?」
「あ・・・うん・・・」

ベンジョンは水差しを手に取った。

大きな身体の所為か、水差しもグラスも、人形の玩具の様に見えてしまう。

こぽこぽと水を注ぐと、恵にグラスを差し出した。

グラスを受け取り、こくん、と喉を小さく鳴らしながら飲むと、幾らか気持ちが落ち着いた。

とはいえ、疑問は山程残っている。

「あの・・・」

恵の声にベンジョンが顔を上げる。

よく見れば愛敬のある顔だ。
小さな子どもの様に、頬がふっくらとしている。

「あの・・・此処は・・・」
「ハオシャンダァレンの家。イェンシンが連れてけって言った」
「ハオシャンダァレン・・・?」
「あ、えっと・・・」

ベンジョンが申し訳なさそうに俯く。

「字・・・は、おいら書けない・・・わからない・・・」
「あ、ううん。いいの・・・」

恵はベンジョンのふっくらとした頬に傷が付いているのに気付いた。

「そのほっぺ・・・」

――あの時、怪鳥に襲われた時の・・・。

「・・・さっきは・・・ありがとう。庇ってくれて・・・」

必死に恵を守ってくれたベンジョンの泣きべそ顔を思い出す。

「『ありがとう』・・・」

ベンジョンはきょとん、と恵の言葉を反芻し、照れた様にほにゃあ、と笑う。

「・・・・・・」

人に礼等言ったのは久しぶりの様な気がした。

それだけに、ベンジョンの反応がとても新鮮で温かいものに思えてしまう。

「あの・・・」
「腹、減ってる?」
「あ、えっと・・・」
「桃、ある。食べる?持ってくる」

嬉しそうにはにかみながら、ベンジョンは部屋を出て行った。

「・・・お腹は別に・・・」

――減ってないんだけどな。

(聞きたい事があったのに・・・)

恵は取り残された部屋の中で、思案する。

此処は一体何処なのだろう。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫