《MUMEI》

「あ・・・」

もうダメだ・・・。

廊下に現われたティエンが恵を見つめた。

「・・・お目覚めに、なられたんですね」
「・・・ゆ、ゆるして・・・っ」

ぼたぼたと涙を流しながら、恵はやっとの想いでティエンに悃願する。

「殺さないで・・・!お願い!!」

恵はティエンを見つめたまま、床にヘタリ込んだ。

身体中の震えが止まらない。

「落ち着いて下さい」

ティエンが恵に言った。

「貴女に危害を加えるつもりはありません」
「そいつは返答次第だな」

開け放たれた扉の奥からイェンシンの声がした。

「イェンシン・・・」
「ティエン、はやく連れてこい」
「・・・対(トエ)」

ティエンが恵に歩み寄り、腕に手を添えて立ち上がらせた。

よろよろと恵は立ち上がる。

足元がふらついた。

背後から、大きな温かい手が恵の両肩をそっ・・・、と包み込んだ。

「好好(ハオハオ)・・・恐がらなくていい。ゆっくり歩け、転んじまうぞ」

男は場違いな程、にこにこしながら、恵の両肩をぽんぽん、と優しく叩いた。

少しだけ、身体の強ばりが抜けていく様な気がした。

部屋に入ると、イェンシンがあの紅い瞳で恵を見た。

「・・・てめぇ、何モンだ」

砦で初めて出会った時と、同じ台詞をイェンシンは口にした。

「先ず、名前を聞きましょう?イェンシン。こう怯えられていては、満足に口も聞けませんよ」

ティエンが提案し、恵の顔を覗き込む。

「僕は、この陽天(ヤンティエン)の天捕補佐長・李 青天(リー チンティエン)皆、青天(ティエン)と呼びます。
・・・援帝陽奉天侯・李 章天(リー チャンティエン)の息子です」

青天(ティエン)が名乗った。

どうやら肩書きらしいが、恵にはちんぷんかんぷんだった。

(陽天・・・)

聞いた事がない。

「この方は、象 金惠(シャン シンホイ)陽天天補長官。
僕の上司です。そして彼は・・・」

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