《MUMEI》

「あ・・・、大人(ダァレン)」

廊下の向うから、籠いっぱいの桃を持ったベンジョンが歩いてきた。

「いた・・・この子、善かった」

ベンジョンが恵を見て息をほっ、と吐いた。

「女を見てろと言ったろ、ベンジョン」

焔星がベンジョンを冷たい目で見て言った。

「あ、う・・・、ご、ごめんなさい・・・」

ビクッ、としながら、ベンジョンが泣きだしそうな顔で謝る。

「彼女に桃を?ベンジョン」

青天が優しく微笑んだ。

「好好・・・優しいな、お前は。善い子だ」

金惠も、ベンジョンを見て微笑む。

「黄金桃か・・・好好、俺の好物だ。酒の次に好きなモンさ。
小姐――恵にも馳走してやろう」
「恵・・・」

ベンジョンが呟き、恵を見た。

「ベンジョン、こちらは池田 恵さん。人世から来た方ですよ。
恵、彼は笨重(ベン ジョン )です。貴女をとても心配していました」
「あ、ありがとう・・・ごめんなさい、勝手に抜け出して・・・」
「ううん・・・ううん、いい。・・・善かった、好象大人(ハオシャンダァレン)といた・・・」
「ハオシャンダァレン・・・」

――恵が金惠を見る。

「『好象大人』は、この方の通り名です。・・・この方ときたら、いつだってどんなときだって、何でも『好好、それで善い』
・・・それが口癖みたいに言うものですから」
「好好・・・、大人ったってそんなに偉いモンじゃあねぇ」

金惠――好象大人が苦笑する。

「じゃあ、この家は・・・」
「好象大人の屋敷です」

やがて、五人は客間の様な部屋に入った。

青天は笨重から桃を受け取り座を外し、程なくして盆に沢山の皮を剥いた瑞々しい桃と、華の様な薫りのするお茶を乗せて戻ってきた。
茉莉竜珠(マリロンジュ)というお茶で、茶葉が丸い珠の様に固まっている。
これに湯を注ぐと、やがて華の芳香と共に丸い茶葉が解れ、お茶になる。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫