《MUMEI》
帰宅
「お兄様!おかえりなさい!」

「ただいま」


俺を屋敷の門に迎えにきたのは妹の紫だった。


紫は今は、屋敷から女子校の初等部に通っていた。


「庭の向日葵が咲いたの!お母様もいるから一緒に来て!」


紫は、母の影響で園芸が大好きになっていた。


昔、『執事になりたい』と言ったのは、執事になれば、俺や父とも一緒になれると思っていたからと聞いた時は


笑って、しまった。


「おかえりなさい、忍」

「ただいま」


咲き誇る向日葵に囲まれ、母は立っていた。


清也様は花が大好きで、園芸にも詳しく、庭作りに口を出す方だったが、旦那様は、全て母に任せていた。

母は、旦那様が元気になるようにと、夏になると向日葵を植えるようになった。

「旦那様は?」

「今日は、戻らないわ」

「最近ね〜、夜もよくお出かけするんだよ」


(珍しいな)


旦那様はパーティーが苦手で、滅多に夜の外出をしない方だった。


「明日には、戻るわよ。

…お父様の事も、忘れないであげてね?」


うつ向く俺を見て、母が悪戯っぽく笑った。


その日は、紫にせがまれて、紫の部屋で一緒に眠った。

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