《MUMEI》
お嬢
「あ、お嬢だ」

「…」


厳が気付くと、吉野はスタスタと帰っていった。

(確か、先週も…)


演劇部の頼を見に来た吉野は、同じ感じだった。

吉野が『お嬢』と呼ばれるのには訳がある。


それは、吉野の家が高山以上に格式がある名家だからだ。


ただし、より成功をおさめているのは高山家だから、吉野家よりも高山家の方が地元では断然知名度や人気がある。


そして、普通の高校生は、吉野家の事はあまり知らない。


ただ、それなりにお金持ちらしい、という程度の知名度だった。


(果穂さんが、政略結婚勧めるわけないもんなあ…)

その証拠に、他の五人の候補者達は、普通の家の子供達だった。


だから、果穂さんも、吉野自身の能力を買っているのだと思うのだが…


気位の高い吉野は、自分の能力が評価された事よりも、家名が評価されない事が嫌で仕方ない様子だった。


(変なの)


旦那様が果穂さんと同じ実力主義者だったせいか、俺は吉野の言動を心底不思議に思っていた。


松本は、吉野が本当に厳を好きになったら、家柄で敵わないと思っているようで、それも変だと思ってしまった。

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