《MUMEI》
一丁目
古びた建物に剥がれかけた張り紙。
描かれている売り地の見取り図に爪が当たる。
住所は滲んで『一丁目』としか判別出来ない。

鼻が当たると同時に顎に湿った感覚がする。

七生のキスは甘い、
甘くて甘くて苦しい。



這い上がり唇のカタチを辿る。
逃げ惑う舌がつるつると潤滑し、蠢いた。


「……ん、  ん んっ 」

喉の奥が勝手に呻く……

七生は知っている。

俺は口内で犬歯の裏の歯茎を狙って嘗められるのがとてつもなく弱い、ということ。

俺の躯が七生の侵入で反り上がる。
七生の腕はしっかりと脇に合わさって支えてくれる。

その、先へ先へと導いてゆく七生に付いて行くのでやっとだ。


「二郎、もっと、強く掴んでよ。離せなくなるくらいに。」

七生の話す息がかかるだけでそこから熱くなる。




駄目だあ……、

駄目。

駄目。


なんだか、七生に懐柔されてくっ――――――――


七生の人形みたいに俺は思い通りにしがみついて離さないんだ。


「二郎が俺の中で納まるのが可愛い。俺、こうやって二郎の匂い覚えられる」

匂いって犬か……


「……う」

うなじに鼻を擦り付けてくるな。
痺れる。

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