《MUMEI》
緋蝶
斎藤アラタは随分と軽い。
一度見た、あの屋上の儚さがこべりついてしまい、頭を振る。

静流達を起こさないように部屋に入る。
斎藤アラタが自分の生活空間に居る事に違和感を感じてしまった。
彼を床にゆっくり下ろすが力無く倒れた。
白熱電球を点灯させる。

彼の白さがよく栄えていた。

そこで初めて気付く。
彼の手袋が黒い。

橙の光りが色相を濁らせたのだ。




あれは、



 血液だ。


アラタの制服のシャツに付着している血痕が、
まるで黒い翼だった。


無防備に放られた手足が人形のようだ。
綺麗な、人形だ。


「……ごめんなさい。触れさせて下さい。」

卑しい自分が斎藤アラタに触れることはあってはならない。
可哀相に、斎藤アラタはこの高潔な身体を最も憎い俺に触らせてしまう。


俺は取り敢えず自分のシャツを着替えた。
背中は斎藤アラタの触れた手形が羽を伸ばしている。
毒々しいそれを丸めてベッドの下に放る。

そして斎藤アラタの手袋とシャツを脱がす。


首が据わってないので俺の鎖骨に額が付く。
小声で上唇が動くので途切れ途切れ密着する膚が硝子のコップに溢れるように熱に満ちる。
いけないと、否定しながらも彼の美貌を肯定してしまう。

前歯がずぶずぶと、食い込んでゆく。
痛みという刺激は強い。







「……抱いて」

やっとで聞き取れた彼の声は耳鳴りのように奥へと沈んだ。


理性がはち切れそうだった。

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