《MUMEI》
彼女から見て
私は憂鬱な気分を払拭したくて冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
「……………クソ。謀られた。」
ぷしゅっ、と小気味よい音をたてて微かに冷気が漂う。
これが飲まずにいられるか!
今日は彼が一緒に晩御飯をと言うから来てあげたのに、当の本人が残業で遅くなるだと!
つか、自宅で食事って、二時間前に電話で残業と共に初めて聞いたわ。
ふざけるな、
「私は託児所じゃねえ!」
ふと手元を見ると500ミリリットルの缶が空になっていた。
…いけない、これから彼の子供に会うのに。
まさか、ここに一人で来ることになろうとは。
安物の食卓テーブルのチェアに腰を下ろした。
ドアが開く音。
よかった、缶棄ててあって。
愛人だからと汚らしい目で見られてはいけない、営業で大手企業官僚も骨抜きの極上の笑顔で対応する。
昌君は常時笑顔を絶やさない、弟を安心させる為……ってトコ?
小学生が学ラン着ているみたい………かーわい。
正平君は昌君の後ろに隠れている、私に怯えてる?
それでもいいわ。
ご挨拶程度に作った、醤油カレーをつつきながら話しをする。
実際に話してみるとちょっと、いやかなり変な感じ……浮世離れしている子供だわ……。
目を合わせててもただ硝子に映り込んでるみたい、遠くをじっと見つめてる印象。
日常の話より、偶然出た秋の海の荒れ具合なんかに食いついて来た。
私こんなヅレた子供の母親になれるはず無いからね………。
嗚呼居づらいことこの上ない!
この仕打ちへの償いは
明日絶対、秋物コートを買ってもらうしかない。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫