《MUMEI》
序章
 この国は壊れてしまった。

いつからかわからない。

気がつけば、おかしな国民行事が定着していた。

 毎年一回。この国のどこかの街で行われるあの行事。

全国で実況生中継されるほどの大イベント。

 舞台となる街が発表されるのは、イベント開始の二日前。

 中途半端に与えられた時間は、参加者の心を追い詰めるには充分だ。

 今までの自分は、そのイベントをただ眺めているだけだった。

 しょせん他人事、テレビの中でのこと。

そう思っていた。

今日、テレビで天皇の口から自分の住む街の名が出るまでは。

 二日後には、今の自分はいないかもしれない。

この街はどうなるのだろう。

 イベントが終了した街のその後を、誰も知らない。

 人間は、実際自分がそういう目に遭わない限り、他人に興味を持たない。

 今になって身に染みて分かった。

 今までの参加者はどういった気持ちでイベントに臨んだのだろう。

 テレビの中、呑気な口調でイベント開催を宣言する天皇を見ながら、ユウゴは呟いた。

「クソ喰らえ」

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