《MUMEI》

「おっと、そうだ。」


ふいに、グレイドが何かを思い出したようだった。


そして俺の方へ体を向ける。


「ちょっとこい。」


その言葉とほぼ同時に、俺の体が逞しい腕にフワッと抱き上げられた。


そうして、グレイドは俺を小脇に抱えたまま、


バッ!!!


勢い良く翼を広げて大空へ飛び出した。


グレイドにとっては大したこと無いと思うけど…。


怖い……。


屋上から飛び立ち、俺達はぐんぐん上昇していく。


しばらくして、下を見下ろすと、家々の屋根がポツポツと小さく、鮮やかに見えた。


所々に、森や、街路樹の緑色も見える。


あまりに上空を飛んでいるので、人の姿は見えないが、大きな一つの芸術作品のような光景に、俺は、ただ圧倒されるだけだった。


「こうして見れば綺麗に見えるのにな…。」


その時、グレイドがポツリと何か呟いたのだが、風の音に書き消されて俺の耳に入って来ることは無かった。


ただ、どこか切なげに見下ろすグレイドの横顔が、そこにあるだけだった。

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