《MUMEI》
二人きり
翌朝。


一睡も出来なかった俺は、同じく一睡もしなかった父と共に、旦那様の寝室に向かった。


父が扉をノックすると、旦那様は、俺だけを中に入れるよう言った。


「行ってきなさい」


躊躇う俺の背中を、父が押した。


旦那様の寝室は、これが春日家の当主の寝室かと思うほど、物が少なかった。


ただ、部屋の広さだけが、普通じゃなかった。


「ごめん、忍」


顔を上げた旦那様を見て、ドキリとした。


それは、俺と同じように、一睡もせず


泣いた、顔だった。


「旦…」

「忍、誰かと寝たんだよね」


それが、紫と寝たという意味とは違う事を俺は知っていた。


俺の頭に浮かんだのは、雅だったから。


「私の為に、男に抱かれたんだよね。見ればわかるよ」


固まる俺から目を背けながら、旦那様は震える声で続けた。


「なのに…私は、こんなで…ごめん、忍」

「いいえ…いいえ!」


俺は首を大きく横に振った。


悪いのは、旦那様では無い。


旦那様を取り巻く普通じゃない環境が、旦那様をこんな風にしたのだ。


…気が付くと、俺は旦那様を抱きしめていた。


腕の中の旦那様をとても小さく感じた

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