《MUMEI》
最後の抱擁
旦那様は震えていたし、薄いパジャマの半袖から出ていた腕は、鳥肌が立っていた。


きっと、本当は突き放したいほどの嫌悪感が旦那様を襲っていたに違いない。


それでも


旦那様は、乱れる息を何度も、何度も整えながら、俺の背中に手を回した。


「ごめん、忍。これしか…
できなくて」

「いいんです。謝るのは、俺ですから」


俺と旦那様は、お互い泣いていた。


俺は、ガチガチに固まってしまった旦那様から、ゆっくりと離れた。


そして、俺は父に渡された執事用の手袋をはめ、旦那様の手を握った。


「ずっと、お側にいますから」

「…いいのかい?」


俺が頷くと、旦那様はまたポロポロと涙を流した。


(愛しい)


心から、そう思った。


そして、俺はこの愛しい主を一生かけて守ると、心に誓ったのだ。


おそらく、今後旦那様が愛する者など現れないと


この時の俺は思っていた。

そして、俺は早々に学校に戻った。


少しでも早く、優秀な執事になりなくて、休みも返上して勉強に励んだ。


大学卒業まで、屋敷には戻らないと、家族に告げていた。

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